【完】最後のバレンタインチョコ
10年前。
俺と沙耶は出会った。


地元から離れた高校。
電車で40分。
飛び交う津軽弁。
俺は圧倒されていた。


沙耶も俺を圧倒する一人だった。


俺の隣の席になった吉田沙耶は、

「喋らなきゃ美人」

津軽弁丸出しの女子だった。


「水野、これ食(く)が?」

沙耶は二カっと笑って、細長い三日月型の食べ物が入った袋を差し出した。


「く?」


「ん。
食べるってこどだよ」


「そ、そうなんだ。
じゃ、いただきます……」

俺は袋の中に手を入れて、謎の食べ物をひとつかみ掴んだ。



パリン……




「あ、うめえ。
吉田さん、これ何?」


「これ?
煎餅の耳だよお」


「へえ。
こっちの地域じゃこうやって袋に入って売ってるんだ?」


「ん。安ぐ売ってらね。
うちの家煎餅屋なのさ。
売っても売っても、余っでしょうがないわげ。
もったいないからこうして処分してるっでわげさあ」


「煎餅屋!?
すげえ、格好いい!
職人さんじゃん」


「はあ!
そっだらごと言うの水野が初めてだあ」


そう言って沙耶は照れながら笑った。


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