Escape ~殺人犯と私~
ようやく、おかしな空気が和んだ。
同時に、私の中で張り詰めていた糸も、緩んだ。
けど、それもほんの一瞬だった。
少年が内ポケットからナイフを取り出した。
途端、私の緊張の糸は今まで以上に張り詰めた。
少年はナイフを片手に、足音も出ない程に柔らかい雪の上を歩いてくる。
私の中に、まるで、彼氏のDVが始まるような、あのおぞましい感覚が蘇った。
恐怖で心拍数が上昇し、目前の視野が狭まり、脳がユラユラと揺らされる様な…
忍び寄る魔の手の恐怖を示す、独特のこの感覚。
「……緋央」
聞き取れ無いほどの声だけど、少年が呟いた……
ひお…って……
……私の名前……
…
一体、この少年がいつから私を尾行てたのか、全く検討もつかない。
もちろん、私が絶対に知らない人だ……
余りの恐怖に涙の停まって、その瞳に映し出されたのは
うっすら赤い何かが、まだらに付着したナイフ
白雪に反射して、ギラギラと