Escape ~殺人犯と私~
半ば放心状態で居ると



表情一つ変えない少年は

すっと立ち上がって


壁に突き刺さったナイフを抜き取った。






先に私を殺して……。





狂った言葉を心で呟いたけど

声に発する気力が無かった。



茫然と座って涙を流す自分の姿を遠目から見てるような

離人したような感覚だった。




私の願いも虚しく

ナイフと携帯を手にした少年は


私に背中を向けて部屋の扉へと歩いていく。



放心状態の私は、ゆっくりと立ち上がって

少年を引き止める訳でもなく


ソファーに置いてある私のカバンの中身に手を伸ばす。









「……赤い……」






黒く艶やかな赤を認識した私は



薄暗い室内でドサリと膝を着いた。




私は茫然としたまま


赤黒く染まった自分の左手首を眺めていた。





扉を出ようとした少年が

私の異常に気が付いて振り返った。




「何してるの。」




淡々と問い掛ける少年は

溢れ出ている私の鮮血を見ながらも


全く取り乱す様子も無く冷静だった。


私にはそれが、少しだけ予想外だった。



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