からっぽな街
ぼんやりと頭の中で、考えを廻らせた。音の無い世界で、真っ暗闇にいると、どこが上で、どこが下なのかがわからなくなる。自分が、どういう状態でいるものなのかも。
コンクリートに寝転んだまま、じわじわと、とろけて、地面に滲んでしまいそうになる。
そういうとき、立ち上がってみる。きっと、寝たままだと、そのままだからだ。
立ち上がれば、どこが地で、天なのかがわかる。私は、立ち上がる。階段の上で、大きく、伸びをする。体中の、筋と言う筋、骨と言う骨が、伸びきるように、腕を天に引っぱりすぎて、肩から千切れてしまいそうになるくらい、思い切り、体を伸ばす。
ばきばきと、体中が、悲鳴をあげる。私は、立っている。地面の上に、こうして、立っている。
電灯に照らされて、長い影を造りながら、自分の足、手、腕、を見る。顔を触り、左右に体をねじる。
生きている。
こうして、呼吸をして、立って、見て、考えて、生きている。
当たり前のことに、ようやく、気がついた気がした。
ゆっくりと、階段を下りる。コンクリートの、一段一段が広く、背の低い階段を居りた。 
自分の足音に耳を澄ます。
暗い夜道を歩きながら、静寂に、耳を済ませた。

< 187 / 286 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop