からっぽな街
最近、良く来るところは、この階段のところ。建物から、少し、離れた場所で、階段を見つめる。
インドの町並みに似た、音の無い住宅街には、古い染みと、禿げのあるベージュのコンクリートの壁の建物がある。
ドアの無い建物の奥に見える、ぼんやりと滲む、古びれた白い階段。暗闇に、ぶわりと浮かぶ階段は、上へ繋げる階段なのか、それとも、地下へ続く階段なのか、そのどちらにも見える。
建物の前までくると、立ち止まって、食べかけのハンバーガーを口に押し込み、コーラで流す。
もごもごと、口の中を動かしながら、ハンバーガーの包みを丸めて、道路に投げ捨てる。
コーラを飲む。しばらく、立ち止まって、その場所を眺めた。
階段を凝視する。
思うのだ。そういえば、この場所から、始まった気がすると。
近づくことは、恐れ多い気がした。近づくことは、事実を知ってしまう気がして恐かった。ずっと、ずっと、変化のない階段を、少し離れた場所から、眺めていた。
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