隣の先輩
 私は先輩に電話をすることにした。


 着信音を大きめに設定しているのか、音楽が流れてきた。

 携帯は部屋にでも置いているんだろう。


「家の中で待ってようかな」


 もちろん、家の中とは私の家のこと。


 そう思ったけど、よく考えたら先輩の家の鍵が開きっぱなしになっている。


 オートロック式のマンションとはいえ、鍵が開きっぱなしなのは防犯の面から考えて好ましくない。


 その上、先輩は寝てしまっている。


 ここでじっと待つか、先輩の家に入るかの二択しかないような気がした。


「許可をもらったし、入っても大丈夫だよね」


 そう言い聞かせ、家の中に入る。もう三度目だからか、そこまでドキドキはしなかった。


 そのとき、思いついたのは悪戯心。


 昨日の仕返しに、先輩を驚かせてやろうと思ったのだ。


 寝起きの悪い先輩だから、からかえる材料が見つかるかもしれないと思った。


 私は軽い足取りで、先輩の部屋に向かうことにした。

 先輩の部屋の前に来ると、深呼吸をした。



 でも、突然不意打ちのように胸がどきどきしてきてしまっていた。



 よく考えると、先輩の部屋に入るのは始めてだった。
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