隣の先輩
「バスですか?」
「十五分のバスに乗る予定」
私は思わず手にもっている携帯を見た。時刻は十分。
バス停までここから七分は見ておかないといけない。
私は家の中に戻ろうとした和葉さんを引き止めた。
「電話をかけてみますから、行ってください」
「起きなかったら、家に上がって起こしてくれていいから」
「分かりました」
「本当、ごめんなさいね」
よほど急いでいたんだろう。彼女はエレベーターまで走っていく。
私はそんな彼女の姿を見送ると、開きっぱなしになっている先輩の家の扉のノブを握る。
先輩のお父さんはもう会社に行っているんだろうけど、
一人でごはんの準備でもして出て行ってしまったんだろう。
しっかりしているお父さんなんだろう。
毎朝、母親をたたき起こす私の父親とは大違いだ。