隣の先輩
 本当は夜まで一緒にいたいけど、家に帰るということは着替えも一緒にできる。

 花火大会には浴衣を着ていこうと決めた。


 そしたら先輩は少しは私のことを女として意識してくれるかもしれないと思ったからだ。


 浴衣は今年の夏前に買ってもらっていた。


 オフホワイトの生地に薄いピンクの花がプリントされたもの。


 思わず一目ぼれをしてしまうくらい可愛かった。


「分かりました」

「じゃ、五時ごろ迎えに行くよ」

「あの、今日は花火大会の会場の近くで待ち合わせませんか?」



 私はそんな提案を先輩にしていた。


 家から一緒に行くのもいいけど、外で待ち合わせたほうが、特別な印象を与えられるような気がしたのだ。

 先輩は眉間にしわを寄せて、私の顔をじっと見る。


「道に迷ったりしない?」


「大丈夫ですよ」


 先輩の中では私は一人でどこかに行くと迷う人なのかもしれない。


 高校まで行けないなんて失態を犯したから無理はないのかもしれないけど。


「迷ったら電話しろよ」


「はーい」


 私はさっそく夜の準備のために家に帰ることにした。
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