隣の先輩
 こういうのなら先輩も見たがるのかもしれない。


「もしかして、このSF映画でも見たいんですか?」

「違うよ。その隣」



 先輩が指差したのはその隣の映画。

「冗談でしょう?」


 私は思わずそんな言葉を漏らしていた。


 そう言ってしまったのは、咲の言っていた恋愛映画だったからだ。


「冗談じゃないって」

「嘘でしょう。だってこんなベタベタな恋愛映画ですよ?」


 私はどう見ても男の人がみたいと思うわけがないその映画の看板を指差す。


 くすくすと人の笑い声が聞こえてきた。


 声が大きかったかもしれない。


「ああ、もう煩い」


 先輩は反応の悪い私に逆ギレしたのか、そう言うと私の腕を引っ張ってチケットを売っている場所まで連れて行く。


「先輩?」


 私が呼んでもその呼びかけに応じなかった。


 そのままチケットを買ってしまっていた。
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