隣の先輩
 そして、映画のタイトルが印刷されたものを私に押し付けた。


「失くすなよ」


「ありがとうございます」


 もうチケットまで買ってしまって、今更帰るとも言えなかった。


 私が見たい映画ではあるが、先輩が見たい映画なのかと言われるとかなり微妙な感じがする。


 人が多く、もう館内の中央の席に空きはなかった。



 私と先輩はできるだけ後ろの席を探し、後ろのほうに二人分だけ空いている席を見つける。


 席に座ると、先輩が立ち上がる。


「何か飲み物を買ってくるよ」


 私に何が飲みたいのか聞くと、外に出て行った。


 先輩が私に買ってきてくれたのはオレンジジュース。先輩はアイスコーヒーを買ってきていた。


 上映時間になると、ホール内を照らしていたあかりが一気に落ちる。


 コマーシャルが流れた後、物語が始まる。


 先輩は本当に見たかったのか、とりあえず画面を見ているようだった。


 私はとりあえず見たかった映画なので、物語に集中することにした。



 物語りも中盤に差し掛かった頃、私の肩にさらっとした髪が触れる。

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