隣の先輩
 再び、静まり返った町並みに除夜の鐘が鳴り響く。


「この近くにお寺があって、毎年鳴っているんだ」


「そうなんですか?」


「そう。大晦日に見に行ったことはないけど、場所は知っているよ」


 また音が響く。


 すごく重くて、それでも優しい鐘の音。


 心を落ち着かせてくれる音だった。


「見に行きたい」


「じゃ、今度場所を教えてやるよ」


「ありがとうございます」



 本音を言えば、先輩と鐘が鳴るのを見に行きたい。


 でも、こうして一緒に音を聞けるだけでも幸せなんだって思える。


 私も先輩も今年は嫌なことがなかったように笑顔で笑っていた。


 来年はどんな年になるんだろう。


 来年は私と先輩にとっていい年になりますように。



 私は隣にいる先輩を見ながら、そう思っていた。
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