隣の先輩

「チョコレートがほしくなった? 売っているのって今日までだっけ?」


 先輩はそう穏やかな口調で切り出していた。


 だから私が先輩のところを訪ねてきたとでも思っているんだろう。


 自分がもらえるなんて全く考えてもいないんだ。


 私は先輩にとって恋愛対象外でしかないから。


 私は唇を噛み締め、深呼吸をする。バッグから紙袋を取り出そうとしたときだった。


「稜と真由ちゃん?」


 人のざわつきよりも車の音が際立つ町並みにそんな澄んだ声が響く。


 宮脇先輩は驚いたように私たちをみていた。


 その隣には宮脇先輩のお兄さんがいた。


「偶然だな」


 私はチョコレートを渡そうとしたからか、心臓をどきどきさせながら、二人をじっと見ていた。


 宮脇先輩のお兄さんは微笑む。


「稜に話があるんだけど、少しだけ借りていい?」


 そう私に聞いてきた。


「あ、はい」


 私は笑顔につられるように、思わずそう返事をしていた。


 そんなに話が長くならないとのことで、出入りのしやすいカフェを選ぶことにした。
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