隣の先輩
 突然出てくると思わなかったので、内心驚いていたが、できるだけ顔に出さないようにする。


「何か用?」


 私が黙っていたからか、先輩がそう問いかけてきた。


 ここで渡そうかなと思ったが、好きな人に今日チョコレートを渡すというのは、私にとっては密かな告白で、できれば誰にも聞かれたくなかった。


「少し出かけませんか?」


 わがままかもしれないと思いながらも、そう問いかける。


「いいよ。ちょっと待って」


 先輩はたいして理由なんて気にならなかったのか、私にそう告げていた。




 すぐに黒のコートを着て、家から出てくる。


 私も私服に着替えればよかったかなとは思ったけど、そんなに出歩くわけでもないから気にする必要もないのかもしれない。


 二月は一月よりはマシだけど、十分に寒い時期


 マンションの外に出るとその寒さに身を怯ませる。


 私は先輩の後をついていきながら、時折体にぶつかる風に身を縮めた。



 薄暗くなりかけた町並みにはライトが道標のように道を照らし出していた。


 時折、車が脇を抜けて行く。私は先輩の横顔を見ながら、いつ話を切り出そうか考えていた。


 先輩が足をとめる。そして、私を見た。
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