キョウアイ―狂愛―
「フラニー!!」
振り向き、馬と共に地面に叩きつけれた子分の名を叫ぶジキル。
だが、つけいる隙を与えてしまった子分はすぐに化け物の餌食となってしまった。
「てめぇら!どけぇっ!!やめろーー!!」
ジキルは瞬く間に岩を駆け降り引き返す。
群がる吸血鬼どもを馬で蹴散らし、威嚇しつつもフラニーに呼び掛けるが、時既に遅く。
フラニーの首は無惨に食い千切られていた。
「……くそっ」
ジキルは洩らすようにうめき、取り囲む、化け物どもをしばし睨み付けた。
しかし、血で口を染める美しい化け物……クレアに魅せられたその時からジキルの道は定まっている。
クレアを腕に抱いている今、すべき事は我を忘れた復讐ではない。
「すまねぇ……」
息絶えた部下にそうつぶやき、一瞬だけ瞼を伏せたジキルは、次の瞬間にはもう岩を駆け上がって、再び先頭に位置していた。
「一気に突き進め!後は振り返るな!」
雨をかき消す大声で叫び、子分達もかけ声を返すと、ジキルはもう振り返らなかった。
突き刺さる雨粒の中、噛みしめた下唇から滲んだ血は雨に融けていった。