キョウアイ―狂愛―
クレアは長い廊下を一人、一歩ずつ確実に足を踏みしめていた。
炎はまだ部分的にしか上がっていないが、吸い込む息が肺に熱い。
身体にも容赦なく熱風が絡み、今にも焼けただれそうだ。
ただこの化け物じみた身体が、素早く皮膚を再生しているのか、まだクレアの白い肌には炎による外傷はついてはいなかった。
「ギャアアアアア」
どこからか、耳を塞ぎたくなるような悲鳴が聞こえてくる。
それは屋敷の外に逃れようとする同胞が、城の兵士達に討たれ、あがった悲鳴であったが、
それを聞きながら、クレアは三十年前に思いを馳せていた。
あの地獄のような日と見紛うばかりの今日の景色。
(そう……あの日も我は火に囲まれ、こうしてゆっくり中庭へ向かった)
全てが一転した日。
死は生に。
終わりは始まりに。
愛は憎しみに。
あの日、中庭へ降りたクレアは、
おびただしい池のような血溜まりと
そこに倒れる、もはやただの肉塊と化した親族。
そして、血に濡れた剣をぶらさけ、一人静かに炎の中に佇むサイファを見た。