キョウアイ―狂愛―
「予定していた盗賊の残党どもの討伐だが、急用が出来たのでそちらに手を回せなくなった」
領主、アルザスの座する広間に通されるなり、サイファは早口で要件を捲し立てた。
いつも澄ました冷然たる異形の主の、取り乱した様子に、アルザスは興味を引かれた。
「何か大事でも起きたのか?」
かれこれ十余年の長い付き合いだが、こんなサイファは初めて見た。
いつもならば、前置きもなく本題を切り出したりしない。
「……屋敷の…同族が、一人、……逃げ出した」
やけに歯切れが悪い。
憮然とした表情からも、あまり公にしたくないのだと分かる。
逃げ出したのは一体、どれ程の人物だというのか?
(ふむ……)
「こちらからも手を貸そうか?」
アルザスの問いに
「いや、けっこう」
思った通り、サイファは断りを入れた。
「要件だけ述べに来たので、これで失礼する」
サイファはそう言うとまた足早に城を後にした。