イミテイション


曲がおわるとアンコールは無しで、ライブは終わった。

「岩崎…」

「俺のことは気にしないで行ってきな」

直人の姿がステージから見えなくなると同時にあたしは走りだした。


裏口に回ってもファンの子たちがいるはずだから、直人の部屋の前で待っていよう。


街並はいつもと何もかわらないのに、こんなにもキラキラして見えるのは何故だろう。


急いで直人の部屋の前に来たときには、息ができなくておかしくなりそうだった。

でもそんなことはお構いなしで、あたしはケータイを開いた。

呼び出し音2回で直人の声がする。

もしもしと言う声を聞かずに、あたしはただ会いたい気持ちを伝えた。


「はやく帰ってきて…今、直人の部屋の前にいるの」

「わかったから、待っててね」


直人が優しくそういって電話が切れた。

電話の向こう側はざわざわしていたけれど、それとは対照的にここは静かだ。


ただ、さっきまでの騒音で耳鳴りがひどいだけ。


< 91 / 96 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop