イミテイション
曲がおわるとアンコールは無しで、ライブは終わった。
「岩崎…」
「俺のことは気にしないで行ってきな」
直人の姿がステージから見えなくなると同時にあたしは走りだした。
裏口に回ってもファンの子たちがいるはずだから、直人の部屋の前で待っていよう。
街並はいつもと何もかわらないのに、こんなにもキラキラして見えるのは何故だろう。
急いで直人の部屋の前に来たときには、息ができなくておかしくなりそうだった。
でもそんなことはお構いなしで、あたしはケータイを開いた。
呼び出し音2回で直人の声がする。
もしもしと言う声を聞かずに、あたしはただ会いたい気持ちを伝えた。
「はやく帰ってきて…今、直人の部屋の前にいるの」
「わかったから、待っててね」
直人が優しくそういって電話が切れた。
電話の向こう側はざわざわしていたけれど、それとは対照的にここは静かだ。
ただ、さっきまでの騒音で耳鳴りがひどいだけ。