悲愴と憎悪の人喰い屋敷
「あれ?北川先輩、珍しいブレスレットを付けていたんですね」

「え?あ、これか」

シートベルトを着用している時、俺の左手首を見た三浦が聞く。
水晶玉の様だが虹色で仄かに光っている事から目にした誰もが珍しいと呼応する。
よく分からないがパワーストーンの一種じゃないかと思う。

「小さい頃に仲が良かった子から貰った物さ」

車を発進させる音を聞きながら、俺はその時を思い出す。

「高熱を出して寝込んでいる時にさ、《大丈夫だよ》ってくれた物なんだ」

「優しい子だったんですね」

「そうだな…」

当時まだ五歳だった手首には大き過ぎていた物は、今ぴったりと手首に納まっている。
家族旅行の数日後、俺は泊まった宿で酷い風邪を引いて寝込んでしまった。
このブレスレットは、その時に宿で仲良くなった女の子から貰った物だった。
その子にお礼を言う暇もなく、すぐに宿をチェックアウトしてしまい連絡を取りたくても、名前も顔も思い出せない。宿泊していた客だったのなら捜し出すのは不可能に近かった。
ブレスレットのおかげで勇気を貰え、一命を取り留めたというのに薄情な男だよな。
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