悲愴と憎悪の人喰い屋敷
「硝子さん、部長が居なくなったとか言ってませんでした?」

少し苛々した口調で樋口が、腕を組んで聞く。
硝子は《どーでも良いんだけど》という顔をして話し出す。

「二、三分だったかしら…席を外して居間に戻ったら居なかったのよ」

「自分の部屋に戻ったんじゃないんですか?」

一番可能性があることを俺が指摘すると、硝子さんは首を振る。

「見に行ったけど居なかったわ。学にも聞いたけど、居間から出たところは見ていないそうよ」

まさか、あの部長が雨の中に飛び出して行ったとは考え難いよな。
三浦の姿もないし何だか不安になってきた…。

「……始まったかな」

スプーンでアイスを、つつきながら望月が呟く。
本当に小さな声だったので隣に座る俺にしか聞こえておらず、樋口や硝子さんは風呂に行ったのではとか、トイレに居るのではとか話をしている。
始まった?
一体、望月は何の事を言っているんだ?
< 30 / 76 >

この作品をシェア

pagetop