悲愴と憎悪の人喰い屋敷
最悪な支配者
話し合った結果、俺と望月は居間に移動した。
部長が囚われている椅子で試すためだ。

「それじゃ、このブレスレットを……って、あれ?」

望月にブレスレットを手渡そうとしたが手首から外れない。
外そうとする手の指は、まるで金縛りにあっているみたいに動かす事ができないのだ。

「な、何でだ?普通は外せるのに…」

こんな事は初めてだ。
喰い込んでいる訳でもサイズが小さい訳でもないのに外れないなんて事があるのか!?
動揺している俺に望月が落ち着いた声で嗜める。

「きっと普通の状況じゃないからですよ。手を握ってくれるだけで充分です」

そう言いながら俺に手を差し出す。
俺が手を握ると望月はしっかりと握り返し、その手を椅子に当てながら呪術に集中する。
掌が熱い…。
次第に三浦を治療していた時のように手も輝き出し辺りに広がる。
これなら成果があげられるのではと強く思った時だ。

『…そんな…こと…したら…だ…め…!!』

「え?」

悲鳴のような女の子の声が聞こえたと思った矢先、

「わっ!」

「うわっ!」

突然、俺と望月は椅子から弾かれた。
手に痺れを感じながら望月に安否を訊ねようとした時、一難去ってまた一難というべきか部屋の灯りが全て消え真っ暗になる。
いや、部屋の面影も何も見えず本当に居間に居るのか分からない。
得体の知れないものが居るような気がして恐怖に駆られていると、ふいに手を引かれた。

「え…」

不思議と怖さはなく、何となく出口に導かれているような気がする。
もしかして、望月か?
可能性の高い人物を想像して俺は手を引かれるまま走り出す。
そして、暫く走り出口はまだかと思った時、手が放される。

「あたっ!」

「北川さん!!無事だったんですね!?」

放されたと同時に床へ倒れこむと、目の前に安堵した望月の顔があった。

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