さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
サジは普段と変わらず、頬の筋肉すら使っていないかのように唇を動かす。
「私はその者を何度か城内で見かけたことがございます」
「間違いないのか」
「間違いございません」
二人の間をぬるい風が縫っていく。
それは足元に纏わりつくようにして、去っていった。
ソリャンがサジの瞳を見上げる。
どちらも瞬き一つせず、真正面から向かい合う。
先に視線をそらしたのはソリャンの方だった。
「わかった。
王の居室周辺は無理だが、それ以外なら好きに見て回れるよう私が手配しよう」
「ありがとうございます」
サジは深々と頭を下げると、ところでソリャン様、と言いながら顔を上げた。
「王といえば、私は以前遠くからお姿を拝見したことがあるのですが、
ずいぶんと様変わりされましたね」
ソリャンの眉が引き攣れたようにわずかに動いた。