さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
興奮が冷めやらぬなか、レイラは床についた。
天蓋のついた寝台は、ジマールのところで用意されていたもの以上に気品にあふれている。
何もない空間をぼんやりと眺めていると、
ソリャンの善意に満ちた笑顔が思い出された。
“正直者”、その言葉が体の内側からこだまする。
あんなにもいい人に、身分を偽ることが果たしてよいことなのか。
産まれて初めての大きな嘘。
人を騙した経験などないレイラは、
乾いた砂を口に放り込まれたように、じゃりじゃりとした苦い痛みを感じた。
それでも目を閉じると、張り詰めた気が緩み、一気に睡魔が押し寄せる。
・・お父さんやお姉ちゃんが、どうかひどい事をされていませんように。
そう祈り終わった直後には、規則正しい寝息が静かな寝室の主になる。
一人の侍女が様子を窺いに来たが、
レイラが熟睡しているのを確認すると、足音を消して部屋から離れた。