花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~

 お願い、とばかりにじっと見つめられて千歳は一瞬息を呑む。
「おっ……おおおおお怒るわけないだろ?」
 再び開いた口からは明らかに動揺した声。
「ちーちゃん? 大丈夫? また熱が上がったんじゃ……」
 顔色が異常な変化を見せた千歳に小梅が小首を傾げる。
 すると急に千歳はガバッと立ち上がり、腕時計を見て、
「悪い。小梅。俺、五時限の授業のプリント、準備頼まれてたからっ……先行くな。ごちそうさまっ」
 そう言い残すと、慌しく階段の方へ走り屋上からあっという間に姿を消した。
「ちー……ちゃん?」
 千歳が消えた屋上入り口の方をきょとんとした表情で見送る小梅の後ろでは何故か綾人がゲラゲラと腹を抱えて笑っている。
「綾人さん?」
「いやっ……小梅ちゃん……病人にあれはキツイっしょ! あは……あはは……いやっ。でも千歳っちマジかわいいし~……あははは」
 あれだけわかりやすい反応もそう見られるものではない。
 それにしてもどちらともどれだけ鈍いのだろう。そう思うと綾人はおかしくてたまらなかった。
そして、そんなふたりが可愛くてしかたないなと、改めて思う。
「う~ん……でもちーちゃん走ってたし……少しは、回復したのかな?」
 訳がわからないといった風ではあるものの、安心したような表情を浮かべる小梅。
 それがまた綾人のツボにはまり。
 屋上にはしばらく笑い声が止むことがなかった――


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