特別保健委員会
「あ。」

緊迫感がない声が、頭上に聞こえる。
いや、無視だ私!
あわてて通り過ぎようとした、まさにその瞬間。

バラバラバラごとごとごと。

見逃せないような、悲惨な音が響き。

「お。」
「ぎゃ!!」

足下に転がった謎の物体を踏んづけた私は、その場に転倒して。
(逃げようとした罰かしら)
見事に踊り場に散らばった数々の得体の知れないピンクやベージュの物体を階段からダイブさせてしまった。

ガシャン!

数秒後に聞こえた、世にも不吉な音は聞かなかったことにしてはダメだろうか。
…というかこれは何だろうか。

たった数秒のうちに起こった出来事に混乱を通りこして呆然。
その上、震える手に取った物体はあまりにリアル。それなのにびっくりする位、現実味がないもので。
思わず投げ出しそうになった。

「し、しししし!!」
「獅子?」

違う、心臓!
心の叫びを吐き出す余裕もなくふらりとよろめく私のすぐ隣で、ふわりと甘い香りが漂う。
投げ出そうと振りあげた手を、冷たい感触が包んだ。気がつけば手の中から心臓は消えている。

「驚かしちゃったかな。」
「な、あ、え!?」
「これ、俺の心臓なんだよ。」

目の前に突如現れた端正な顔。
人を信頼させるような笑顔から告げられた言葉に声をなくす。
え、なにこれ、七不思議?この人、妖怪!?
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