特別保健委員会
おそらく私は余程目を白黒させていたのだろう。
くす、と愉しそうに笑ったその人は、私の頭にぽんと手を置いてから散らばった彼の臓器らしき物体を集めだした。
髪を通して伝わる微かに冷たい感触に、振りあげた手を止めてくれたのはこの人の掌だったのかと納得する。
一つでも理解することができたからだろうか。
少しだけ余裕ができた私は、口を開く。

「あ、あの、ええと、」

しかし、なんて言ったらいいのかわからず、とりあえずあたりを見回す。
と、しゃがみこんだ踊り場、床に置かれた人体模型が見えた。よく見ると、中身の内蔵部分は空っぽ。

「じ、人体模型、の、内臓か…!」
「はは、もしかして俺の冗談信じてた?」

思わず口から飛び出した安堵の叫びに受けこたえる声は、やはり愉快な響きを持っている。
声の主、肝臓や大腸と思われる身体の部位を振りながら微笑む人騒がせなその人を軽くにらんだ。(というか、これは誰なんだ)

なんのことはない。
考えてみれば、人の内臓がこんなにきれいにはずれるわけもないし、ガラスを割るほど固いはずも、ない。

そこまで思考を追いつかせてから、ようやく思い当たった。
私、さっき転んだときに蹴りとばした内臓、もしかして。
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