龍馬! ~日本を今一度洗濯いたし候~
9 龍馬暗殺




  龍馬は宵になると、後藤象二郎と話した。
 場所はきまって、なじみのお慶の清風亭である。
 三日後に後藤は、
「いやあ、まいった。坂本さんはそれほど土佐藩に戻るものが嫌じゃきにか?」ときく。「そうじゃきに」
    あご           
 龍馬は顎をなでながら苦笑した。
「世に浪人ほど楽な身分はない。後藤くんは浪人になったことがないからわからないきに」「かといって、あの同盟まで成立させたかのひとが、只の浪人で、新政府の中に名前すらないとはどげんことじゃきにか?」
「わしは役人になりとうて日本中を走りまわった訳じゃないきに」
「じゃきに…」
 後藤は口をつぐんだ。こりゃあまいった、と思った。英雄とはこういうものなのか?
 龍馬と社中を土佐藩にくみいれて、土佐の一翼を担ってもらう気だったが……
 龍馬からすれば、なにをいまさらいってんだ、というところだろう。
「藩士は御免じゃきに」
 龍馬ははっきり言った。龍馬は私立軍艦隊をつくり、天下に名を馳せると野望を語った。そのうえ貿易もする。後藤は、
「坂本さんは日本の政権に野望をもっとるですがか?」と尋ねた。
「いや」
 龍馬は後藤をみた。この男はそんな推測までするのか。
「わしの野望は政ではない。貿易でこの日本を『貿易立国』とするんぜよ」
「貿易?」
「そうじゃ。日本の乱が片付けば、この国を去り、船を太平洋や大西洋に浮かべて、世界を相手に商いがしたいきに」
 
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