龍馬! ~日本を今一度洗濯いたし候~

 大久保越中守の目配せで、水野和泉守はやっと麟太郎に声をかけた。
「勝麟太郎、どうじゃ?」
 一同の目が麟太郎に集まった。
 ”咸臨丸の艦長としてろくに働きもしなかったうえに、上司を憚らない大言壮語する” という噂が広まっていた。
 麟太郎が平伏すると、大久保越中守が告げた。
「麟太郎、それへ参れとのごじょうじゃ」
「ははっ!」
 麟太郎は座を立ち、家茂の前まできて平伏した。
 普通は座を立たずにその場で意見をいうのがしきたりだったが、麟太郎はそれを知りながら無視した。麟太郎はいう。
「謹んで申し上げます。これは五百年の後ならでは、その全備を整えるのは難しと存じまする。軍艦三百七十余隻は、数年を出ずして整うべしといえども、乗組みの人員が如何にして運転習熟できましょうか。
 当今、イギリス海軍の盛大が言われまするが、ほとんど三百年の久しき時を経て、ようやく今に至れるものでござります。
 もし海防策を、子々孫々にわたりそのご趣意に背かず、英意をじゅんぼうする人にあらざれば、大成しうるものにはございませぬ。
 海軍の策は、敵を征伐するの勢力に、余りあるものならざれば、成り立ちませぬ」
 勝海舟(麟太郎)は人材の育成を説く。武家か幕臣たちからだけではなく広く身分を問わずに人材を集める、養成するべき、と麟太郎は説く。
 この年、麟太郎門下の坂本龍馬が訪ねてきた。龍馬は前年の文久二年夏、土佐藩を脱藩し、千葉定吉道場で居候していたが、近藤長次郎に連れられ、麟太郎の屋敷を訪ねてきた。 最初は麟太郎を殺すつもりだったが、麟太郎の壮大な構想をきくうちに感化され、すぐに弟子入りをした。
 龍馬は姉・乙女に手紙を書く。”天下一の英傑・勝麟太郎(勝海舟)先生の弟子なりました。えへんえへん”……

  
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