一口雑話 覚え書き
はみ出した、
◎◎ネタメモ◎

惚れるという事がなかった為コレがそうだと確信はない。
けれど、これこそが、
一目惚れ…いや、
一聞惚れだろう。

荒削りながらも魂を揺するサウンド。
泣き出しそうな声は歌詞と絡まって心を締め上げる。
冬の東京で、皮膚を切るような寒風の中。私は立ったまま泣いたのだった。

3年後、私はまだ彼らの隠れファンをしている。
彼らは白い息を吐き出しながら、今日も駅前からショッピングモールに続く長い遊歩道の片隅で哀切な曲を奏でていた。

私はいつも少し離れたベンチで耳を傾けていたのだが、今日はいつもと違った。
彼らが演奏の手を止めてこちらにやってきたのだ。
「あの…。もしかして俺達の曲。よく聴いてましたか?」
びっくりした。確かに暇な日はこの前を通って、彼らが演奏していたらここに座って聴いていた。
ファン心理からくる緊張で、声をかけるどころかかなり距離をとっていたのに気付かれていたなんて。
否定するわけにもいかずやや上擦った声で、3年ほど前から見掛けた時は彼らの歌の聞こえる距離で休憩する事にしていると話した(素直に言えないのは照れの所為である)。
「3年も前から?!」
彼らは驚きと…何かもっと複雑な顔をした。

「今までありがとうございました。
俺達今日限りここには来ないんです」
驚く私に、彼らは悲しい笑顔で、今年で大学を卒業するから。と、言った。

私は泣いた。
「ごめんなさい」
頭を下げた。彼らは混乱しているようだったが、涙は止められなかった。

何もしなくてごめんなさい。
せめてあなた達に、好きだと、応援していると、伝えるべきだったのに。
「ごめんなさい」

後悔の念が胸を締め付ける。
それは、最初に聴いたあの歌に似ていた。
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