Blood†Tear
「ぇ……何故……どう…して……」
鮮血が色白な肌を赤く染めた。
目の前にある彼の顔が歪んでいく。
血の付いた鎌は彼女の手から滑り落ち、音を立て地に転がると消え去った。
身体を斬られ深い傷を負ったコウガは傷口を押さえると血を吐き荒い息を整える。
口元の血を拭うと、赤い瞳を見開き後退る彼女を押し倒した。
仰向けに倒れた彼女の上に乗る彼は苦しい筈なのに微笑んでいる。
「…何故……何故避けない……?何故武器を手にしない……?何故…何故私を殺さない……!?」
「…言っただろ……?信じてるって……」
揺れる瞳は何時もの瞳。
狂っていた筈の彼女は何時もの彼女に戻っていた。
「本当に、斬られるとは…思わなかったけど……」
声を出すのも辛いだろうに、彼は途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
彼は気づいていたのだ。
彼女が本当は狂っていない事に。
彼女が狂ったふりをしていたと言う事に。
「…何時から……何時から気付いていた……?」
「…初めから…最初から、気付いてた……」
血に狂えば、闇に身を任せれば、彼は自分を殺してくれると思っていた。
だから彼女は狂ったふりをし彼を襲ったのに、彼はそれに気付き、彼女を救おうとしていたんだ。
なのにそれに気づかずに、彼女は彼を傷つけた。
「折角…救われた、その命……無駄にするな……頼むから…死ぬなんて、言うな……殺せなんて、言わないで、くれ……」
傷口から溢れる血が怪我を負っていない筈の彼女の身体を赤く染める。
揺れる瞳で見つめる彼女の頬に付く鮮血を優しく拭うと、落ち着かせるように笑ってみせた。
「…コウガ……」
「…ごめん……もう、無理……」
彼女は何かを言おうとしたが、苦しそうに顔を歪める彼に遮られた。
冷や汗を浮かべ顔色の悪い彼は一度謝ると彼女の上に倒れて行く。
「コウガ……?しっかりしろ……!」
気を失う彼を揺さぶり名を呼ぶが反応はない。
胸騒ぎに息を呑み、彼女は彼に手を貸すと急いでその場から離れていく。
空は赤から藍に変わる。
煌めく星が1つ、一際綺麗に輝き瞬いていた。