Blood†Tear
彼の鋭い瞳から逃げるように目を反らすと、箱の中身が床に転がって行くのが目に入った…
丸くて、白くて、1割程黒くて…
そして、所々に散らばる紅…
転がって行くそれは、ローグの足に当たり動きを止めた…
「これが何か分かるか?」
彼の声に身を震わせ、瞳を揺らしながら彼を見上げる…
彼は優しく微笑んでいた…
でもその笑顔からは冷たさを感じ、彼女は彼から目を反らす…
「お前の大切な馬の瞳だよ」
低い声で言うと、彼はその眼球を踏み潰す…
グニャリと嫌な音がした…
耳を塞ぎたくなるような嫌な音…
何かに逃げるように目を瞑り、床に着いた掌を力強く握る…
「これは罰だ。約束を破ったお前への」
こんな事をしたのは彼女のせいだと言うローグ…
彼はゆっくりと彼女に歩み寄る…
コツリと響く足音に、力強く唇を噛む彼女は身体を震わせていた…
「馬車の車輪に付着した泥、玄関に残る枯れ葉の残骸。そして、お前から匂う他国の汚れた匂い」
彼女の目の前にたどり着くと、乱暴にその綺麗な栗色の髪を掴む…
「気づかないとでも思ったのか?」
「っ……」
痛みに顔を歪める彼女を睨む黒い瞳…
先程までの優しい瞳はどこへいってしまったのか…
「言っているだろう?外には出るなと、この屋敷から出るなと」
瞳に溜まる涙を指で拭い、赤く腫れた頬を長い指が優しく撫でる…
そしてその手は顎を掴むと自分の顔へと近づけた…
「お前は私の言う通りにしておけばいいのだ。只ここに居て、何事もなく日々を過ごせばいい。何も考える事はない。それがお前の幸せなのだから」
優しく囁くが、彼女は怯えた瞳で彼を見詰める…
その瞳が気にくわなかったのか、ローグは髪を掴む手をグッと握ると彼女を突き飛ばした…