マジック・エンジェルほたる
由香の家は、さほど広くない。でもまぁ、日本という島国で「豪邸」などというのはまず無理な話しだ。地方ならまだしも、蛍や由香たちの住む青山町は埼玉という首都圏の東京に近い場所にあるからだ。
「……こんなもんかしらねぇ!」
夜もだいぶ過ぎた頃、赤井由香は自分の部屋で、机にむかって真剣な表情でいった。そして、自信ありげにニヤリと微笑んだ。興奮し、頬が火照ってきた。
別に「お勉強」をしている訳ではない。この少女の特技ともいえる「絵」を描いていたのである。「絵」とひとことでいってもいろいろある。古典、写実、印象、抽象、シュールレアリズム…。その中で由香という美少女は「印象派が好き」なのであり「印象派のなかでも「やっぱりルノワールが最高よっ!」
と、いつも考えているのである。
とにかく、そう思っている由香はよく少女画を描いている。それは別に悪いことではない。可愛らしい少女にはアーティスティック・チャームがあるからだ。広告的にいえば、「美女と子供と動物」は注目を集める三大要素だ。そういう意味からいっても、美少女画は注目を集めるのには理想的ともいえる。
そして、今夜も、由香はスケッチブックに少女画をスラスラと描いたのである。それがうまく描けたので、
「…こんなもんかしらねぇ」
と、思わずニヤリとしたのである。それは、きらきらと輝く表情。由香は、命がけで絵画を愛した。
しかし、才能溢れる(かは知らないが)由香をジッと睨んでいる人間がいた。いや、人間ではなく魔物の「三騎士」のひとり、ダビデである。
「あの娘か……?」
ダビデは夜空にフワリと浮きながら、窓からみえる由香の横顔を遠くから観察して、恐ろしいくらい低い声でいった。……