ダンディ★ライオンの秘密の恋愛講座
 優しく、静かなその声に見上げれば、そこに。

 さっきまでわたしに大根役者だの、恋愛経験ないだろう、とぶつぶつ言っていた人と そっくりな顔があった。

「獅子谷さん……!」

 驚いて、姿勢を正すと。

 刹那よりも五つほど大人の男(ひと)が、少しはにかんだようにほほ笑んだ。

「那由他(なゆた)、でいいです。泉川さん。
 私は刹那のメイク係でいつも弟と一緒に行動してますから。
 名字で呼ばれると、混同してしまうので……」

 そう言うと、那由他さんは、投げた台本の埃を軽く払ってわたしの手元に返してくれた。

「弟の刹那が、また、わがままを言ったみたいですね。
 すみません、本当に……」

「いえいえ、とんでもない!」

 放っておけば、刹那の代わりに頭を下げかねない、那由他さんに。

 わたしは、慌てて手を振った。
 
「わたしも、女優デビューがこの作品なので、判らないことばかりで。
 刹那……さんには、いつもご迷惑をかけてしまって……」

「ああ。もう刹那の方も、呼び捨てで構いませんよ。
アイツのわがままっぷりは、筋金が入ってますから、それくらいで十分です」

 那由他さんは、あくまでも物腰が柔らかく、声が、優しい。

 男性のくせに、メイクを専門にしている彼の指先は、女性のように細く、しなやかだ。

 刹那とは、兄弟のはずなのに、顔は似てても性格は大違いよね。

 思わず、その顔を眺めていたら、那由他さんがどうかしましたか?
 
 と首をかしげた。
 



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