本屋の花子〜恋をしたら読む本〜

いつかのメリークリスマス

どれ位経ったのか携帯電話の着信音で目が覚めた僕は携帯の時計を見て跳ね起きました


昨日のイベントの片付けがあり朝7時出勤だったんです


電話に慌てて出たら鯛からでした


『まっさん、大丈夫か?』


『あぁもう出る』


と言って見たものの風呂にも入らずに着替えもしていなかったので時間をずらしてもらう事にした



『なぁ、まっさん昨日の事を考えたり小池の事も考えるな』



解ってはいるけれど目を閉じても飯を食ってる時もトイレで何十分も座ってる時も暇ならずぇったい目の前に彼女がいる


これは重傷なのか?

罪悪感なのかは解らないけれど多分罪悪感が重症になっているんだ思う


僕はサッサとシャワーを浴びて服を着て急いでSマートに行きました


開店前の事務所前で小池さんがソワソワと前に出たり後ろに下がって回れ右したりまた回れ左してドアノブに手をかけたり怪しい動きを繰り返していました


僕は暫くそれを見ていたけれどあまりに邪魔なその行動に苛ついてしまい小池さんに近付いて行きました



『あのっ。小池さん何してるん?.』


僕は小池さんの肩をツンツンと指で押してみました


『早く中に入って下さい。通路狭いから早くっ』


そう言って小池さんの背中を押して事務所に入りました


何故かその背中は細くて弱々しくて胸が潰れてしまいそうでした


『小池さん。僕に何か言いたい事があるんじゃ無いですか?』


僕は机の引き出しを開けてある書類を見つめながら背中にいる接客サービスの小池花子さんに話しかけました


昨日、小池さんにケーキを渡して帰って行った後にパソコンでプリントアウトしておいたんです



『解ってますよ。小池さんおめでとうございます。引き止めたりしませんから』


そう言って僕は引き出しのその書類を小池さんに渡しました


その書類を見た小池さんは堪らない位顔を悲しく歪めて僕を見ました


僕だって顔、歪んでますし涙が零れてしまいそうですよ



小池さんはその書類を見ると僕の隣の席に座り


『ボールぺン』


『これでいいですか?』



『・・・』


小池さんは僕からボールペンをひらりと抜き取ると何も言わず黙ったままその書類に黙々と書きました


【退職届け】



『何で知っとるの?』


それは・・


『あんた。いっつも言葉が足りないんや俺もそうやけど。でもあんたが決めたんでしょ頑張って下さい』



そう目の前のパソコンのスクリーンセーバーの積み木崩しを見つめながら僕は小池さんに言いました



『ごめんやで』



『何を謝っているの?』


小池さん何を謝っているんですか?

Sマートを辞める事ですか?

それとも僕とサヨナラする事ですか?


僕は、貴女からあの日の返事をまだ貰っていません。


小池さん後程とはこんなに長い時間を言うのでしょうか?



『あんまり上手じゃないんよ』



恋とか人を好きでいる事に上手って必要なんですか?


下手ならどうすれば上手になるんですか?


『分かってます。もういいですから仕事に戻って下さい』



小池さんは僕のその言葉に事務所を飛び出して行きました



今まで座っていた机の上に【退職届け】
を置いたまま

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