カナリアンソウル
只今、午前十時を回ってすぐ。

黒板にはズラズラと化学式が書かれていくが、何一つ頭に入ってこない。

それどころか、まだまだ終わりそうにない授業が、とてつもなく永いと感じる。

私は時計を見て顔を曇らせながら、授業が終わるのを携帯片手にじっと待っていた。

ついさっき卓人から送られて来た、貴ん家の住所。

それを見たら、仮病を使ってでも良いから一刻も早く会いに行きたくなった。

部活に行ってから〜なんて考えはみすみす無くなるに決まってる。

といっても、私が居ても居なくても、先輩が引退したばかりの剣部は男女合わせても三人。

どこよりも先に廃部寸前に陥っていた。

「ひろみ〜」

私は前のめりになり、ひろみの背中に掛かるエンジ色のスカーフを軽く引いた。

「まだ終わらないよぉ〜」

「体調悪いって言って、早退しちゃえば良いじゃん」

「テスト落としたから無理なんだもん……今単位落としたらマジでやばいのっ!」

「じゃあダメじゃん。まだ一時間目なのにね」

住所を覚えるかのように携帯を何度も見直す。

教室の角に貼られている、携帯電話禁止!と書かれた注意書きは破れてボロボロになっていた。
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