記憶 ―夢幻の森―
低い狼の唸り声と、
コンの小さな鳴き声が重なる。
『…ハルカぁ…、ごめ…。俺は、ハルカの命を削るヤクビョウガミなんだ…』
「コン…?」
疫病神…?
何を言っている!?
それより、
今、この場をどうするかだ。
コンの属性は「火」。
獣は、火を嫌うはずだ。
それで何とか切り抜けられないだろうか?
俺はそう焦りを募らせていたが、コンは変わらず、涙を流しながら奴等を見据えていた。
『…おれ、怒っちゃダメなのに…。でも…、でもぉ…アイツらだけは許さないんだ…!!』
コンの黒い体が、
ガクガクと震えを増す。
クゥン…
『…ごめんな、ハルカ…』
「――!?」
黒い小さなコン…
その姿は、
もう、どこにもなかった。
そこには、
三匹の狼をも隠す、
大きな黒い影があった。
――グルルル…
そう威嚇する鋭い牙の口先。
先程までの愛くるしい瞳は、切れ長の眼光鋭い瞳へ変貌し…。
肉球が可愛らしかった手は、面影もなく。
薔薇の棘程だった二本の角は、すっと伸び、鋭利な凶器へと姿を変えていた。
「…コン…なのか…!?」
俺は目を見開き、状況を把握する事すら難しく感じていた。