記憶 ―夢幻の森―
「…記憶喪失…?」
父親が首を傾げたが、ハルカはお構いなしに話し続けた。
「それでねっ、キースったらコンの言葉が分かるの!すごいでしょ!?」
ハルカは横でぴょんぴょん飛び跳ねて言った。
俺の腕も上下に揺れる。
「コンの言葉が…?」
父親は真っ直ぐに俺を見ていた。
「こんなの初めてよねぇ~?コン!」
『おぅ!でも、なついてはないからなッ?パパの誤解は解けよな、ハルカぁ。』
「いいじゃん。」
『ヤダ。』
俺を挟んで、無邪気なハルカたちはそんな会話を繰り返す。
父親は全てを見透かすように、俺に瞳を向けたまま。
しかし、表情は穏やかだ。
俺は意を決して口を開いた。
「…行くあてもなく、お嬢さんに甘えてしまいました。突然の訪問、申し訳ない…。」
俺が下げていた頭を上げると、父親はなぜか腹を抱えて笑いを堪えていた。
それでも若干の声が漏れている。
……?
何がおかしい?
「はは…っ、すまない。記憶喪失の少年キースくんは、随分と大人びた口調で話すんだなぁ…と。」