HEMLOCK‐ヘムロック‐
『君、ココの子だよね?』
いつも彼女を見かける白い廊下。
少年は溜まりかねて、遂に今日、少女に声を掛けた。
艶めく黒檀の髪と瞳。対照的な白い肌。確か歳は自分より下で6歳くらい。あどけない少女の全てが可憐であった。
少女は黙って質問に頷いた。
『君って白雪姫みたい』
『しらゆきひめ?』
不思議そうな表情で少女は見つめ返して来た。
最早少年にとってそれはある種の毒に等しいだろう。自分の繊細な髪質の栗毛を弄る事で、彼は体が熱くなるような淡い動揺を隠した。
『しっ、知らないの? おとぎ話だよ』
『しらない』
少女が伏し目がちになった事で睫毛の長さが露わになる。
少し悲しげな少女の表情に、少年は焦って言った。
『じゃあ、今度僕が本を持ってきてあげる!』
『ホント? それむずかしい? わたし、よめる?』
『ちょっと難しいかも。でも僕が読んであげるよ!』
『ありがとう! おにいちゃん。おなまえ、なんていうの?』
少女の花の様な笑顔に見とれ、少年の返事は少し虚ろな感じになる。
『僕は……イオ。君は?』
『わたしはおしえちゃダメってママにいわれたの』
少年は少女の返事に別段驚かなかった。少年も実は名乗れない存在だったから。
しかし、どうしても少女に自分の名を知っていて欲しかった。