ミモザの朽ち木
なにが起きているのか、さっぱりわからなかった。

あたしは夢の中にいるのだろうか?

パパのほうを見ないようにしながら早足でママのとなりに行く。


「……ねえ、ママもパパの姿が見えるんだよね? なんで平気な顔してるの?」


「なによそれ。どういう意味?」


「だってパパは――」


だってパパは、あたしが殺したはずなのに。


視界のはしには相変わらずパパがいて、見ないようにと意識するほど気になってしまう。


「ひかる、お弁当箱出して。いま洗っちゃうから」


「ねえママ、あそこにいるパパは生きてるの?」


ママはきょとんとした顔であたしを見ると、


「……ぷ。一応、生きてるんじゃない? 死人みたいな冴えない顔してるけどね」


意地悪そうに笑ってそう言った。


非現実的ななにかが起きている。

今のあたしに理解できるのはそれだけだった。


ママに言われるまま、あたしはバッグから弁当箱を出して流し台の上に置いた。


「ひかる、洗面所に乾いた洗濯ものがたたんであるから、部屋に持って上がってね。今朝言ってたピンクのブラジャー、もう乾いてるわよ」


ママに生返事をして振り返ると、パパがこっちを見ていた。

あたしは急いでダイニングを出て洗面所に行き、洗濯ものをかかえて二階に駆け上がった。
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