ミモザの朽ち木
おかしい。

パパはあの日、間違いなく死んだはずなのに。

何度もパパをナイフで刺して、黒こげになるまで燃やしたはずなのに。


記憶――。あたしの記憶が、灰色のもやに包まれてぼんやりとしている。

それはどうにもつかみどころがなくて、探ろうとすればするほどあたしから遠ざかっていき、どうしても、もやの中に入っていくことができない。

あたしは考えすぎて頭が痛くなり、へなへなとベッドに倒れ込んだ。



しばらく横になったまま、枕もとに転がったカンガルーの縫いぐるみをぼうっと眺めていると、階段の下からあたしを呼ぶママの声が聞こえた。

夕食ができ上がったらしい。

ダイニングに戻るのは気が滅入ったけれど、もう一度パパをこの目で確認しておきたいという思いもあった。

あたしは一度深呼吸をしてからドアを開け、恐るおそる階段を下りた。
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