私に恋を教えてくれてありがとう【下】

14、リセット

窓を叩く風は一向に止むことなく

病院全体を、いや、この孤立した病室を集中的に攻撃しているかのように思える程で


それはまるでそらの鼓動のようだ。


それを感じ取ったか、淳一郎はそらを
ぐっと自分に引き寄せ肩をさすった。


「……大丈夫?

 そら、一息入れますか?」



淳一郎は肩をすくめ

そらだけにわかる

缶コーヒーを飲む仕草をしてみせた。



「それとも酸味のあるジュースにしますか?」



そらはふふっと笑った。



「~!!淳一郎先生?

 ふざけて言ってるのならさっき目元に浮かんでたもののこと

 後世にいい伝えますよ?」



ひょうきんに眉を上げ淳一郎は聞こえませんのふりをした。


きっと淳一郎は私の事を酷く心配している---


そらはいつもよりどことなく一挙一動が大きくなっている彼を見てそう感じた。


そんな彼と目が合い

こんな場面だというのに妙に思慕が沸いて

そらはまたふふっと頬をやや赤らめ微笑んだ。




そらは思った。


『この人は私を幸せにしてくれる』



母のあんな過去をめくり
自分はどんどん崩落するのみかと思っていたけれど

彼はそれを難なく覆すのだ。



淳一郎は何故笑われたのか多少分かった様で

そら同様頬を赤らめた……


すると恥ずかしさを紛らわす為か
彼は箱の隅にあった手の平にすっぽり収まる4センチ四方程の物を手に取った。

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