私に恋を教えてくれてありがとう【下】
それはベロア素材。


「……これ何でしょうね」


淳一郎はなんの造作もなくそれを開け

暫く眺めた後そらにも見せたその手順は

まるでその小さなケースに何も仕掛けられていないか

そらに悪影響がないか下見した……

そんな様に見えた。



「……ピアス?」



何とも高価そうな

石はなんだか分からないが

淡い湖の色の雫が華奢に
米粒大の金に垂れ下がったものだった。




「きれいですね」



そう言い、淳一郎は口をつぐんだが、そらが続けた。



「片方だけだね」



「………」



二人の間に何故かしんみりとした空気が漂った。



そらは彼の手元からそれを受け取り
片方しかないピアスをやさしく指でなぞり

淋しい目で言った。



「……母さん……


 失くしたのかな……」



どこからか涙の音がした気がした……。


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