私に恋を教えてくれてありがとう【下】
……そういえば今日は先生当直だっけな……


華子はその考えを恥ずかしく思った。





当直のカレンダーを見て


その日どの道で帰るかを決めているのは


自己防衛の為である。







でも……

違う感情が固くひび割れをおこしたところから


噴き出してきそうなことに華子は気付いている。





言葉にするのが怖い。


言葉にしてはいけないのだ。




……でも




こんなうるさい雨の中でも


“かれ”の声を正確に思い出すことができるし


大きな手、


広い背中


家庭の香りを感じながら


帰りの退屈な時間を過ごしていた。




そして……自分の中に


孵化させてはいけないものを見つけてしまった……。




雨を払うように頭を大きく振り回し


出来るだけしゃんとさせ


駅までの道を急ごうと足を速め

近道する為に一本奥の細い道に入り

公園の脇道を行った。




じゃっ…じゃっ…びじゃっ!!じゃ……じゃっ





後ろから足音が聞こえる。



いつからいたのだろう……


そうとう自分は邪魔であっただろうと申し訳なく思い


歩道のより端に寄った。




すると……






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