私に恋を教えてくれてありがとう【下】
「ひゃ!!」





華子の横に真黒な外車が


これでもかと近くに寄せてとまった。



その所為で今までの努力が水の泡。





痛い顔付きで革の靴を薄目で見つつ呻いた。






すると中から灰色の頭をぶつけない様に


出てきた長身の男は


どこか少し遠方を見て“ちっ”と舌打ちをした。








「牧田先生!?」







華子の声は上ずった。







……ついに後をつけてきたのか!?……




とっさに傘を両手でぎゅっと握りしめ



早足でその場を去ろうとしたが




華子は息をのんだ。









いつも華子の頭を撫でるあの手が



二の腕をきつく捕えた。







「あなたは車で待ってなさい!!!」









そう乱暴に言い放った牧田の燃えるような顔付きは





どこか父親をおもわせ、どこか……







華子はその場に足が張り付き動悸がはしり


牧田は白い薄手のジャケットを翻し公園をつっきって


もう一本奥の人気のない道へと


雨を跳ね返すように走っていった。



< 54 / 355 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop