リアル
需要があるから供給がある。人の価値観等、その時の時代背景で幾らでも変貌するし、絶対的な正義等は無い。そんな曖昧な価値程度で私は薬の為の殺しを止める事は無い。殺しを止める時、それは私自身が死ぬ時以外には無い。私は震え出す身体を抑え付ける様に、グラスに入っているホットウィスキーを一口啜り、私の拠り所であるヤク入りの煙草に火を点けて脳味噌の旅に出る。
「ちゃんと帰れるの?」
「大丈夫さ……」
 痺れる脳味噌。私は、私の身体を壊し続ける事で生きている実感を得る事が出来る。消えそうに成る意識。私は途切れ途切れな視界の端に呆れ顔のママを捉え乍ら、壊れて行く自分の身体に身を委ねる様に、思い切り煙草の煙を肺に吸い込み、トリップの旅に出る事にした。

「逃げなさい!」
 眼の前で母が血を流し乍ら悶え苦しんでいる。夢だ。両親が惨殺された時のシーンが延々と続く。親父は部屋の中でバラバラに解体されている。小学校の時の記憶だ。
「悠也!」
 母の断末魔の叫び。私は眼の前で解体される母から、恐怖の余り眼を逸らす事が出来なかった。
―又か……
地獄巡りの様な記憶だ。視界が薄れ場面が変わる。
「これが、慰謝料だ……」
 両親を殺したのは、土地の名士と呼ばれる家のバカ息子だった。流石に事件を完全に揉み消すと迄はいかなかったが、ニュース等で大々的に扱われても可笑しくない事件の筈が、実際には闇から闇へと葬り去られた。惨殺死体。発狂。権力。金。幾度となく甦る私のルーツ。
―うんざりだ。
 悪夢であれとどれだけ思っただろうか。だが、消し去りたくても消せない記憶。
『ちょっと、こんな所で寝ないでよ』
 ママの声が遠くから聞えて来る。どちらが現実と幻想なのか分からなく成る時がある。
『本当に暢気な寝顔ね』
 感覚が徐々に戻って来る。私は悪夢の淵を覗き、ママの声に呼び戻されるのを感じ乍ら、忘れる事の出来無い記憶から必死に逃げ出そうと足掻き苦しみ続けた。
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