リアル

「よう来てくれなさったなぁ」
　チャイムを押すと同時に、田中は出掛ける準備は万端とばかりに待っていた。
「すいません、待ち合わせの時間にギリギリで」
「いや、こちらこそワシの我侭を聞いて頂いて、申し訳無い限りじゃ」
　互いに恐縮をすると云う、不思議な空気が二人の間に流れ、同時に照れ笑いを浮かべる。
「じゃあ、行きましょうか」
　恐縮する田中に向けて、坂部は元気良く声を掛け付き添う様にして歩いて車の置いている場所に移動して乗り込む。
「病院は、Ｓ大学付属病院で良いんですよね？」
　坂部が助手席の田中に声を掛けると、田中は心なしか寂しそうに頷きシートに身体を静める。
　イグニッションにキーを差込みグッと捻り、エンジンを掛けてサイドブレーキを下ろす。
「お茶、置いときますね」
　坂部はドリンクホルダーにホットのお茶を差し込み、田中にお茶を勧めてアクセルを踏み込む。ゆっくりと車は滑る様に走り出し、大通りの車線に合流し他の車の流れに乗る。
「田中さん、身体の具合悪いんですか？」
　走り出してから十分。田中は押し黙った侭で元気が無い。坂部はそんな田中を見ていると寂しい気持に成り、必要以上に神経を使ってしまう。
「光さん……」
「はい」
「光さんが妻に会うのは、今日が三回目位じゃったかな？」