リアル
「そうですね、多分その位だと思います」
「実はな……」
「何かあったんですか?」
 一言毎に逡巡する田中に、坂部はどう接して良いのか分からずに困惑する。
「光さんは、今、恋人は要てるのかね?」
「恋人ですか?残念乍ら僕はモテナイんですよ」
 坂部は場を和ます為にわざとおどけて見せるが、田中の反応は何ら変る事も無く、淡々と話し出す。
「……こんな話、光さんにするのは迷惑かも知れんが、少しだけ聞いてくれるかね?」
 田中は俯き加減で呟き、ドリンクホルダーに置いてあるお茶を手に持ち一口飲む。
「僕で良いのなら、聞かせて下さい」
「光さんも知っている通りじゃが、ワシ自身も呼吸器障害で満足に動く事が出来んのじゃが……」
「呼吸器障害三級ですからね、無理をしたら駄目ですよ」
「ワシもな、自分にそう云い聞かせとるんじゃが。その為に、妻の見舞いもろくに行く事が出来ん……」
 窓の外。チラチラと小雪が空から舞い落ちる。
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