リアル
ビールを片手に富田が視線を寄越して来る。全てを見透かした眼。私は富田の視線を五月蝿そうに頭を左右に振り、グラスを一息で煽る。
「少し、外の風に当たって来るよ」
 グラスをカウンターに戻し外に出る。冬の風が私の周りを吹き抜ける。草臥れたビルの上、私は乾いた音を響かせ乍フェンスの前に移動して街を見下ろす。喧騒がビルの上迄聞こえて来る。私は薄汚れた街を見下ろし乍煙草に火を点けて一服する。ヤクザの一人が死んだ。否、正確には私がこの手で殺した。依頼人は天昇会。殺された浜本が所属していた組だ。現金の着服。浜本は組への上納金の一千万をパクッて追われる身に成り、指名手配されていた。警察からは殺しの犯人として指名手配をされ、裏の世界からは横領で指名手配された。表と裏から同時に指名手配された人間が生きていける訳が無い。だが、浜本は巧みに気配を消して上手く逃げ回っていた。 その上で、私は天昇会から二百万の現金と、国内では入手が難しいDMTと云う幻覚剤を成功報酬に依頼を受け浜本を消した。金と薬さえ貰えば、どんな汚れた仕事でも確実に実行する。
「腐り切った顔をしているな」
 背後から富田が話し掛けて来た。
「分かっているんでしょ?」
「ああ」
「何時迄泳がせる気ですか?」
「分かり切った事を聞くじゃないか」
 腹の探り合い。まるで政治屋に成った気分だ。
「ジュウさんが情報を流して、私が実行する。そんな付き合いを十年か……」
「捜査四課ってのはな、ある程度個人的な裁量の元、汚い取引は暗黙で認められているんだよ」
「殺しを教唆するのも、裁量の範囲内ってやつですか?」
 言葉の端が尖がるのが分かる。今日のヤクはバットトリップだ。
「俺は、効率的な方法で愚か者を葬り去ってるんだ」
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