リアル
「正義を行使する為に、悪を利用する?」
「お前さんは昔からそうだな。冷静な振りをして言葉で突っ掛かって来る」
 全てを見透かされている。私は、この富田重明の掌で弄ばれているのだろう。
「向こう見ずな族の総長で、命知らずな特攻がお前さんの得意技だったよな」
「特定した言葉運びは絶対にしないのが、ジュウさんの人心掌握術だったね」
「やけにカラムな」
「とある組織に所属している奴を消したら、何処かの組のガサ入れが入った。事件の関連性と云う名目でね。上手く利用された気分だよ」
「記憶にねえな」
「御上の得意な言葉だ」
「毒を絶つには、毒で迎え撃つのが手っ取り早い」
「ジュウさんは、正義と悪と云う二律背反で悩む事は無さそうだ」
「悪に染まり乍も正義を行使する。根底に流れている価値観を失わなけりゃ、道に悩む事も無いんでな」
「刑事って面を被った、立派な極悪人だよ」
「褒め言葉として取って置くぞ」
 私の皮肉に、富田が皮肉で切り返し豪快な笑い声を上げ乍「ママが呼んでるぞ」と短く云い屋上から立ち去る。ママが居て富田が居ると云う事は、今度の依頼人は富田と云う事だ。
―今度の殺しは、誰がターゲットだ。
 私には、富田の様な信念等は無い。金と薬のどちらかを与えてくれるので有れば、私はどんな汚い仕事も請け負う。例え、それが子供の命で有ってもだ。
―やけに冷えるな
 私は、凍える身体を寒空に晒し乍、DMTを仕込んだ煙草に火を点け、思い切り肺に煙を吸い込む。クラリと、頭の中がクラクラと揺れる感覚が襲い、色々な記憶がオーバーラップして来る。両親の顔。高校生の頃の自分。死体。墓。最悪なバッドトリップが続いている
< 7 / 95 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop