飛べない鳥
『杏…』


俺は一歩一歩、杏に近付く。


杏は後退りをしていく。


そして後ろを向き、杏は逃げようとしたが、俺は杏の手を握り、杏を引き止めた。



『待って…杏…俺、お前に最低なことした…好きな人を忘れようとしてお前と付き合ったりした…でもやっぱ忘れられないんだ…』



杏の肩は小刻に震えていて、きっと杏は泣いているのだろう。


鼻水をすする音が聞こえる。



『…そっかぁ…』



え?それだけ?
何でとかは聞かないのかよ?



『杏、泣いてるのか?大丈夫かよ…』




『優しくなんかしないでぇ…』




『ごめん…』



俺は杏の手を離した。

力が抜けた杏の手。


杏を抱きしめてやることは出来ない。



杏は頬の涙を拭い、俺の方に向き直した。



『大丈夫…大丈夫だよ?しょうがないよね…』



杏…お前は体が小さいくせに強がってばかりだったね。
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