飛べない鳥
『その写真を撮った人を知っているの?』



俺がこう質問すると彼女は大きく頷いた。



彼女はその写真を両手で握り、微笑んだ。


瞬きをする度、瞳からは涙が溢れる。



そして小さな声で写真に向かって呟いた。



『愛している…』



彼女の言葉を聞いた瞬間、俺の心を取り巻いていた漆黒の闇が消え去っていく気がした。



彼女を見ていたら、愛していると唯に伝えたくなった。



『それ…あげるよ』



彼女の大きく潤った瞳が俺を写す。



『でも…これはあなたの大事なものでしょ?』




『いいんだ。あなたを見ていたらなんかあげたくなった。あなたを見ていたら大事なことに気付いたし…お礼だよ』



すると彼女は俺に笑顔を見せた。



きっと今までで一番素敵な笑顔だっただろう。



俺も伝えたい。



愛している人に…




愛していると─…
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